クレーン 定期自主点検の重要性と具体的な手順

クレーンは建設現場や工場、物流拠点などで重量物の運搬に欠かせない設備ですが、その安全性と効率的な運用には定期的な点検が不可欠です。クレーンの点検は法的に義務付けられており、定期的な自主検査を怠ると、重大な事故や法律違反につながります。本コラムでは、クレーンの定期自主点検の重要性と具体的な実施手順を詳しく解説し、実際の現場で役立つ情報を提供します。

クレーンの定期自主検査とは?

クレーンの定期自主検査は、労働安全衛生法およびクレーン等安全規則に基づき、クレーンの安全性を確保するために事業者が行う必要のある点検です。吊り上げ荷重が0.5トン以上のクレーンには、年次点検と月次点検が義務付けられており、これらの点検を実施し、その記録を3年間保存する必要があります。点検を行うことにより、機械の異常を早期に発見し、事故を未然に防ぐことができます。

【対象となるクレーン】

①つり上げ荷重0.5トン以上の全てのクレーン

②つり上げ荷重0.5トン以上の全ての移動式クレーン

③デリック、エレベーター、建設用リフト及び簡易リフトなどのクレーン等安全規則の適用を受ける設備

定期自主検査の種類と内容

年次定期自主検査
年次定期自主検査は、1年に一度、クレーンの全体的な状態を詳細に点検する検査です。点検項目は、構造部分、機械部分、電気部分など多岐にわたります。

  • 構造部分の点検: クレーンのフレームやガーダー、ボルト、ナットのゆるみ、ひび割れ、腐食などを確認します。これらの異常があると、構造強度が低下し、クレーンの安全性に直結するため、特に念入りにチェックします。
  • 機械部分の点検: ワイヤーロープ、つりチェーン、フックなどの吊り具を点検し、摩耗や破損、変形がないか確認します。また、ブレーキやクラッチなどの操作系統の正常な動作もチェックします。
  • 電気部分の点検: 配電盤や開閉器、コントローラの異常を確認し、配線の断線やショートの危険がないかをチェックします。電気部分の不具合は、クレーン操作の誤動作を引き起こすリスクがあるため、徹底した点検が求められます。
  • 荷重試験: 定格荷重に相当する荷重を吊り、クレーンのつり上げ、走行、旋回、トロリの横行などを定格速度で動作させ、機械が正常に作動するかを確認します。この試験はクレーンの実際の運用状態に近い環境で行うため、機械全体の性能を正確に評価できます。

月次定期自主検査
月次定期自主検査は、毎月行うクレーンの状態確認です。クレーンの使用頻度が高い現場では、月次点検を徹底することで、機械のコンディションを良好に保ちます。

  • 安全装置の点検: 過巻防止装置、過負荷警報装置、ブレーキなど、クレーンの安全を確保するための装置が正しく動作するかを確認します。これらの装置が正常に機能しないと、過負荷や操作ミスによる事故が発生するリスクがあります。
  • ワイヤーロープ・つりチェーンの点検: ワイヤーロープの摩耗や断線、つりチェーンの伸びや変形などを確認し、安全な荷物の吊り上げができる状態かどうかを点検します。
  • 電気装置の点検: コントローラーや配線、集電装置の状態を確認し、断線やショートがないかをチェックします。配電盤の内部まで点検を行い、異常の有無を確認することが大切です。

作業開始前の点検
毎日の作業開始前に行う点検で、クレーンを運転する担当者が実施します。短時間で確認できる項目を中心に、機械の基本的な状態を把握する点検です。

  • 機能の確認: 巻過防止装置やブレーキ、クラッチ、コントローラーの機能を確認し、異常がないことを確認します。操作ミスや機械トラブルを防ぐために重要です。
  • ランウェイやトロリレールの点検: ランウェイの状態、トロリが横行するレールのゆがみやガタつきがないかを確認します。レールの不具合はクレーンの動作に大きな影響を与えるため、慎重な確認が求められます。
  • ワイヤーロープの通り具合の確認: ワイヤーロープがスムーズに動くか、絡まっていないかを確認します。ロープの不具合は吊り荷の落下など重大な事故につながる可能性があります。

暴風後等の点検
暴風や地震などの自然災害の後には、クレーン各部の点検を行い、異常がないかを確認します。特に屋外に設置されているクレーンは、風や地震の影響を受けやすいため、念入りな点検が必要です。

 

  • クレーン本体の損傷チェック: 鋼材の曲がり、ボルトの緩み、溶接部分のひび割れなどを確認し、クレーンの安全な使用が可能かどうかを判断します。
  • 安全装置の再確認: ブレーキ、緊急停止装置などが正常に作動するかを再度確認し、災害時の対応ができる状態であることを確保します。

自主検査を行う際の注意点と実施者の役割

定期自主検査は、クレーンに関する専門知識と技術を持った者によって行うことが推奨されています。検査資格は特に必要とされていませんが、安全を確保するために、適切な知識と訓練が重要です。検査を外部業者に委託する場合は、信頼性の高い業者を選ぶことが必要です。検査で異常が見つかった場合、直ちに修理しなければならないため、検査後の対応力も重要です。

クレーン性能検査について

クレーンの性能検査は、検査証の有効期間(通常2年)が切れる前に行われる点検です。性能検査では、クレーン各部の構造や機能について詳細に点検し、荷重試験を実施します。検査証の更新が行われない場合、クレーンは使用できなくなるため、必ず有効期間内に検査を受ける必要があります。

定期点検を依頼する際のポイント

点検業者を選ぶ際は、厚生労働省の「定期自主検査者安全教育要領」に基づいた教育カリキュラムを提供しているか、長期的なメンテナンス計画を提案してくれるかなどが判断基準となります。信頼できる業者に点検を依頼することで、安心してクレーンの運用が可能となります。